引き潮をつかまえに

朝彼女が起きると、そこは彼女の部屋で、忘れていた彼女の現実だった。
すべての家具や配置や眺めが、ずっと見えていなかったかのように懐かしく、過不足なく愛しい。
あれ?と彼女は思う。
家具や配置は変わっていない。
彼女が気持ちを失っていただけだ。
取り巻く現実への愛しい気持ちは、引き潮のようにずっと遠くに行って戻ってこないかと思った。
今朝は懐かしさと親近感を覚えた──ここは彼女の契約している部屋で、彼女の生活がある場所で、ものは、彼女が選んだようにそこにある。
いつも見下ろす窓辺、街の人々、光の入る大きくも小さくもない部屋。
彼女にとって落ち着く部屋。
自分の現実に出会い直す朝。
とても静かだ。

とても静かな朝、彼女は少し自分に戻った。
彼女はいつも自分でいたいと願ってきた。
自分の愛しいものは疑うことなくいつも愛しいと本当は思っていたかった。
誰かに、「そのままのあなたでいいよ」と一度も受け入れられたことがなくても。
代わりに、「あなたを扱うのが大変だった」と言われてきたとしても。
それらの影響を無視して進もうとすると、歪みが大きくなっていく。

人生の初期、「そのままの自分」を受け入れる役目を果たしてくれる人がいなかった人は、その後、それを自分で引き受けなければならない。
誰にもしてもらったことがないことを、自分でやり方を見つけ、施していく。
それは大仕事だし、自分が引き受けるという自覚をしないとスタートが切れない。
彼女の引き受け方はどこか充分ではなかったのかもしれない。
日に日に事態は深刻化した。
彼女は、自分にはそんな仕事があるのだと知られたくなかった。
ほかの人のように、もっと別の、外側の何かに打ち込んで時間を費やしたかったのだ。
そうやって目に見える成果や栄光が、自分も欲しかったのだ。

そのままでいて成長したくないという意味ではなくて、自分という人を成長させたかった。
彼女が行ける方に素直に成長したかった。
でも今、「あなたは間違えました」と通知でも受けたかのように、日々が深刻化している。

たとえ現実と彼女の解釈のあいだに多少の隔たりがあろうとも──誰もがそこに距離を持つように──過去を公平に見るために、彼女は海へもぐり、出来事を検証していく。
古いフィルムを取り出して、場面を再生して客席から見る。
彼女の気持ちがどこでどうなったか、追体験する。
事実はもうわからないけれど、海の底で手がかりをたどっていく。
彼女はその仕事を引き受けたくなくてさぼりたい。
海の中は暗く息が苦しい。
でも代わりはいない。
何度も潜って探しに行くと、時々新たな発見がある。
彼女は犯人を見つけて逮捕したいわけではない。
ただ、彼女は自分を犯人にされたままでは困るのだ。
だから、何があったか見つけに行って、自分に課せられていた責任を、過去のあるべき人物のところにお返ししに行く。
「あなたの分まで重かったです。少しずつお返ししに来ます」
それを、今から見えるすべての人にやる。
彼女本来の重さを取り戻すために。

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