起きてカーテンを開けると、景色が明るい。
久しぶりに世界に色がついている。
日課のとおり窓を開けて、朝一で部屋の空気を入れ替える。
窓を引きながら、ひんやりとしない、と、その手に外界の空気の感触がある。
どうやら季節が変わったようだと、もう一度窓の外をしっかりと見た。
光の色が変わっている。
「夏が来たんだ」と私は言葉で思った。
しばらくどんよりとした雲の下にあった交差点が、今朝は急に新しい季節に色づいた。
きっとまだ雨の日もあるけれど、でも、厚い雲が滞在しているあいだ、季節の切り替えが行われていたのかなと思うほど鮮やかな変化だ。
山鳩がどこかで鳴く声がする。
私は都会で育ったわけじゃないから、この声がするとどうも落ち着く。
前に住んでいた街では、7月を境に、本当に驚くほどきっかりと7月1日に蝉が鳴き始めた。
この街では二度目の夏を迎えるが、残念ながら蝉の声がしないことを知っている。
でも日差しは嘘をつかない。
「短い夏が始まる」と私はまた言葉で思った。
穏やかだったこの部屋での生活の、心の風景は少しずつ変わっていく。
部屋はほとんど何も変わらないまま、私は同じではいられない。
日々を重ねれば年も取るし、喜びも悲しみもいろいろ通過してゆく。
同じでは通用しないのに、私は私のまま。
春頃、私の心は落ち着いていて、まだわからない未来を怖がっていなかった。
何ができるとかできないかよりも、まだ起こっていない時間への希望を持っているかどうかが肝心という気がした。
自分なんてたかが知れている。
特に私はね、とつけ足す。
それでも人としての対等さを自ら放棄せずに生きていくことを心得て。
間違い探しのように交差点を眺める。
5月と何が違うんだろう。
なんで私は夏の色だと思ったんだろう。
身近なことへの眼差しは愛しく、忙しくなれば私でも忘れがちになる。
見たいものを見ておこう。
同じ世界を生きて、今朝の夏を夏だとしっかり受け止められた人が何人いるかわからない。
感じたいものを感じておこう。
また次の世界に行く前に。